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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)79号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)、同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、請求の原因四の審決を取消すべき事由の有無について判断する。

1 (相違点(1)及び(4)について)

(一) 本願発明は、前記争いのない本願発明の要旨(請求の原因二)の構成からなるものであり、場合により潤滑剤を供給しながらの線材の案内、引抜き部材による表面硬化、表面剥離部材による表面剥離、切削屑の分離、という過程を経て線材の表面を表面剥離するための方法に関するものであるところ、原告は、本願発明が第一引用例及び第二引用例記載の事項から当業者が容易に発明をすることができないものであるとする根拠として、まず、本願発明と第一引用例記載の方法との審決指摘の相違点(1)に関し、本願発明は、鍍金すべき線材の表面を表面剥離するための方法である(これに限定される。)のに対し、第一引用例記載の方法は、鋼のような硬い金属の表面仕上げを目的とする技術であるとして、両者は対象を異にする旨主張する。

成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三号証、第四号証によれば、本願発明の明細書の特許請求の範囲には、「線材の表面を表面剥離するため、特に鍍金すべき線材の表面を表面剥離するための方法において」と記載されていて、「鍍金すべき線材の表面を表面剥離するための方法」という文言が用いられ、発明の詳細な説明にも、「本発明は、線材の表面を表面剥離するため、特に、鍍金すべき線材の心材を表面剥離するための方法に関する。」(第一頁下から第四行ないし第二行)と記載されていて、「鍍金すべき線材の心材を表面剥離するための方法」という文言が用いられていることが認められるが、いずれも、右のとおり、「線材の表面を表面剥離するため、特に」という一般的に例示的な記載であることを示す文言に続くものであり、そして、右各証拠によれば、特許請求の範囲の末尾は、「……を特徴とする線材の表面を表面剥離するための方法」であり、発明の内容を簡明に表示するものでなければならない「発明の名称」(特許法施行規則第二四条、様式第一六〔備考〕11)も、「線材の表面を表面剥離するための方法」であることが認められること、また、線材の案内に際し、潤滑剤を供給する構成について、「潤滑剤を供給しながらの案内は、非鉄合金、特にアルミニウム合金の場合、特に有利なものである。」(第三頁第七行ないし第九行)、「特に、表面剥離する材料が例えばアルミニウムのような非鉄金属である場合、案内中に例えばアルコールを噴射又は導入することによつて潤滑することは、冷却効果を充分とすることができるので、有利なものとして考えられる。」(第四頁第一三行ないし第一七行)との記載のあることが認められ、本願発明において選択的事項であつて必須の構成要件ではない右構成は、線材が非鉄金属特にアルミニウムである場合に適用するのが有利であるとされていることは、本願発明が対象とする線材には、アルミニウム以外の非鉄金属及び鉄も包含されるものであり、鉄の場合には、案内に際し潤滑剤を供給することは必要でないことを示唆するものであること、更に、「酸化性の表面を有する材料では、材料の案内、引抜き及びこれにつづく表面剥離は合目的に保護ガス中で行われ、したがつて、このように予備加工された材料は、次いで行われる例えば鍍金加工にも何ら問題なく適用できる。」(第四頁第一七行ないし第五頁第二行)との記載のあることが認められ、「鍍金加工」が本願発明の方法による表面剥離の後に行われる加工の例示として挙げられていることを併せ考えると、本願発明は、鍍金すべき線材の表面を表面剥離するための方法に限定されるものではなく、線材一般の表面を表面剥離するための方法であつて、鋼のような硬い金属をも対象とするものであるといわなければならない。一方、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例記載の方法は、断面積の縮小を伴う誘導ダイス、工作物から表面金属を切りとる作用をする切削工具及び工作物の断面を縮小する仕上げダイスに次々に通すことによつて(特許請求の範囲)、「一様な断面を持つ棒や桿を定められた寸法に縮小すると同時に、改善された表面仕上げと金属の棒や桿、特に鋼の棒や桿に改善された物理的及び機械的性質を与えるようにする方法」(第一欄三三行ないし第三六行)に関するものであるところ、その実施例としては、鋼の棒や桿を対象とした例が記載されていることが認められるものの、特許請求の範囲では、対象について「微小な断面差の繰り返される棒や桿の形をしている金属の加工物」とだけ記載されていて、特に鋼あるいは鋼のような硬い金属に限定する記載はなく、発明の詳細な説明中にも、前記「一様な断面を持つ棒や桿……金属の棒や桿、特に鋼の棒や桿」という記載の外、前記実施例についての記載に続いて、「鋼の棒や桿の処理に対して記載して来たが、この概念は、他の金属の棒や桿の製造においても、同じ力の作用が存在するので、利用できることは十分に理解される。」(第七欄第三八行ないし第四一行)との記載のあることが認められるから、第一引用例記載の方法は、ことさらアルミニウム等の非鉄金属を対象から除くものでないことが明らかである。

したがつて、本願発明も第一引用例記載の方法も、線材一般を対象として、その表面を表面剥離するための方法に関するものである点において一致するものであり、原告主張のような差異は存しない。

(二) しかして、原告は、本願発明と第一引用例記載の方法との審決指摘の相違点(4)に関し、本願発明の特徴の一つは、線材の表面剥離を引抜き工程の直後に行うべく、引抜き部材と表面剥離部材との間隔を極端に短くした(最大六mm)ことにあるが、第一引用例記載の方法においては、誘導ダイス(本願発明における引抜き部材に相当する。)と切削工具(同じく表面剥離部材に相当する。)の位置関係は、切削工具に続く仕上げダイスとの関係で定められているものであるから、仕上げダイスとの関係を断ち切つて(仕上げダイスなしに)切削工具を誘導ダイスの直後に位置させるという技術的思想は示されていない旨主張する。

前掲甲第五号証によれば、第一引用例記載の方法は、前記のとおりの誘導ダイス、切削工具及び仕上げダイスに次々に通すことによつて、バーバーポーリング(barberpoling)と称する不安定な切削状態(第二欄第二八行、第二九行)なしに、表面金属を連続的に除去する方法を提供するべく(第三欄第二七行ないし第二九行)、誘導ダイスと切削工具の間隔との関係で、切削工具に続く仕上げダイスにおける金属加工物の圧縮率を定める(誘導ダイスを切削工具の前一インチ(二・五四cm)以下に置くときには、仕上げダイスにおける圧縮を一・五%ないし四%とし、又は、切削工具と誘導ダイスの間隔に関係なく仕上げダイスにおける圧縮を四%以上とする。)ものである(特許請求の範囲)ことが認められるが、同号証によれば、第一引用例には、その発明に至る広範な研究の過程において、「(6)誘導ダイスと切削ダイスとの間の距離と『バーバーポーリング』発生の量的関係」を研究したこと(第四欄第二六行ないし第五欄第八行)が記載され、更に、その研究の結果として、「誘導ダイスと切削工具の距離が〇・一五インチ弱及び一インチまでのときは」仕上げダイスにおける「四%以下一・五%までの低い圧縮で切削工程における安定が得られる。」(第五欄第三〇行ないし第三三行)との知見が示されていることが認められ、これによれば、仕上げダイスにおける圧縮率との関係を一応離れて、誘導ダイスと切削工具の間隔を大小種々の距離にして「バーバーポーリング」発生の状況を調べたこと、そして、仕上げダイスにおける圧縮率との関係においてとはいえ、誘導ダイスと切削工具の間隔を〇・一五インチ(三・八一mm)弱にすることが示されているから、第一引用例には、仕上げダイスとの関係を断ち切つて(仕上げダイスなしに)切削工具を誘導ダイスの直後に位置させるという技術的思想は十分示唆されているということができ、しかも、本願発明において、右誘導ダイスに相当する引抜き部材と、右切削工具に相当する表面剥離部材との間隔を最大六mmと数値限定したことについて、本願発明の明細書によつても、格別の技術的意義を見出しえず、かつ、第一引用例には、右のとおり〇・一五インチ(三・八一mm)という、六mmよりも小さい数値も示されているのであるから、原告が主張する前記引抜き部材(誘導ダイス)と表面剥離部材(切削工具)の間隔の点は、第一引用例の記載から当業者が適宜選択できる程度のことといわなければならない。

したがつて、右間隔の点について、当業者が必要により選択できる程度のことであるとした審決に誤りはない。

2 (相違点(5)について)

次に、原告は、本願発明と第一引用例記載の方法との審決指摘の相違点(5)に関し、本願発明と第二引用例記載の技術的事項との差異について、本願発明の特徴の一つは、切削屑が線材の表面に対して少なくとも五mmの間隔で分離されることにあるところ、第二引用例記載の技術的事項における切削屑分離の個所と線材の表面との間隔は、切削屑剪断用の円筒状(套管状)切削工具の半径によつて決まるが、この半径を所定のもの、とりわけ少なくとも五mm以上とする技術的思想は示されていないと主張する。

前掲甲第二号証の一、二、第三号証、第四号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明には、「表面剥離時に生じる切削屑が線材の表面に対して少なくとも五mmの間隔で除去される。このことは重要であり、このようにすると、切削屑の流れを一様にすることができ、したがつて、表面剥離工程も同様一様化できるので、高級品としての表面が得られるのである。」(第四頁第六行ないし第一二行)、「表面剥離工程中に生じる切削屑を除去するために、剥離される材料から少なくとも五mmの間隔で回転するバイトを設け、該バイトが、剥離された材料から切削屑を自由に小さく切断除去剥離するようにすると有利である。切削屑のこのように自由剥離することは、小孔、溝等のない、平滑な表面を線材に生ずるためには、必須の条件である。」(第七頁第二行ないし第九行)と記載されていることが認められ、本願発明において、切削屑を線材の表面に対して少なくとも五mmの間隔で分離するのは、表面剥離によつて生じる切削屑の流れを一様にし、小孔、溝等のない平滑な表面をした線材を得るためであると認められるところ、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例記載の技術的事項は、「金属半製品である被工作物の表面層を所定の厚さとして取除くための加工装置」(第一欄第一九行、第二〇行)に関するものであつて、本願発明における表面剥離部材に相当する皮剥ダイスの引抜き工程中に当該皮剥ダイスから放射状に伸長する切削屑を、右皮剥ダイスを囲んで同軸的に固定された円筒形支持部と、右皮剥ダイスと同軸的関係を保持して往復運動を行う円筒状(套管状)切削工具(第二欄第三一行)との協動により剪断する構成からなるものである(特許請求の範囲)が、その目的は、「この加工工程中には、切断片又は削り屑が形成されるが、これらは、相当な長さを有するものとなつて、しばしばダイスに接近して堆積して、この加工の継続を著しく困難とする。この欠点を避けることは、特に自動機械の使用上に重要であり、これに対する解決策も提案されているが、いずれも被加工物に損傷を生じることを容易に免れえないものである。」(第一欄第二六行ないし第三三行)という欠点を伴うことなく、金属被加工物の連続引抜きを行うことができる装置を提供することにあり(第二欄第四行ないし第六行)、円筒状(套管状)切削工具による切削屑の剪断除去について、「前述の切削工具の往復運動は、任意適当な駆動機構によつて行われる。被加工物の送り速度を適当に調節し、また、切削工具に対する往復駆動速度を適当に制御することによつて、切り屑の長さを所定のものとすることができる。」(第二欄第一七行ないし第二一行)、「このようにして、引抜き速度と切削工具5の往復運動の速度とを適当に選ぶことにより、上記削り屑18を所定の長さに上記往復運動の一衝程ごとに剪断することができることは明らかである。」(第四欄第八行ないし第一一行)と記載されていることが認められるから、表面剥離によつて生じる切削屑を種々所定の長さに線材(金属被工作物)の表面から剪断除去して、線材の表面に損傷を生じさせないようにするものである点において、本願発明と差異のないものと認められる。そして、第二引用例には、直接的には、右のとおり切削屑を種々所定の長さに剪断除去することが記載されているだけであるが、右のように線材(金属被工作物)の表面に損傷を生じさせないように、切削屑を線材の表面から剪断除去するためのものが円筒状(套管状)切削工具である以上、その半径を右目的に照らして適当な所定のものにすることは当然のことであるから、第二引用例には、切削屑分離の個所と線材の表面との間隔を所定のものとする技術的思想が示されているということができ、また、本願発明において、右間隔を少なくとも五mm以上と数値限定したことについて、本願発明の明細書によつても格別の技術的意義を見出しえない以上、本願発明は、第二引用例記載の技術的事項における切削屑の剪断除去手段を第一引用例記載の方法に単に適用したものにすぎないといわなければならない。

したがつて、第二引用例に記載された技術的事項を第一引用例記載の方法に適用して本願発明とすることは、当業者が容易に発明をすることができる程度のことであり、このとき、切削屑の分離間隔を五mmとすることも、引抜き速度などの条件を考慮して必要により選択できる程度のことであるとした審決には誤りはない。

3 以上によれば、審決指摘の相違点(1)、(4)及び(5)に関する審決の認定、判断に誤りはなく、本願発明は第一引用例及び第二引用例記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決は正当であつて、原告主張の違法の点は存しない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

線材の表面を表面剥離するため、特に鍍金すべき線材の表面を表面剥離するための方法において、線材を、まず場合によつては潤滑剤を供給しながら案内し、次いで引抜き部材を通してその横断面積をほぼ五%減少することにより線材の表面を硬化し、その直後、引抜き部材の後方、最大六mmの間隔で設けた表面剥離部材により線材の表面を連続的に剥離することと、線材の表面剥離したときに生じた切削屑が、表面剥離を一様にするため線材の表面に対して少なくとも五mmの間隔で分離されることとを特徴とする線材の表面を表面剥離するための方法。

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